« その3 | トップページ | 調べくらべ♪ »

2007/02/26

胡粉

胡粉は日本画の絵の具の「白」。
牡蠣の貝殻を細かく粉状にしたものだ。
それを溶くのはいろんな絵の具の中でもいちばん手間がかかり、
まず粉状の胡粉は、細かすぎて固まってしまっているので、これを乳鉢ですりつぶす。
すりつぶした胡粉に少しづつ膠を入れて団子状にこねる。
このとき、乾き過ぎないよう気をつけながら団子にしたり紐状にしたりを繰り返し、
自分の手の中で「いい子、いい子」するようにまとめていく。
あるていど粘りが出たらこれを絵皿にはりつけて、
こんどは少しづつ水をたらし、貼付けた胡粉の頭を
やはり「いい子、いい子」となでながら溶いていく。
この「いい子、いい子」が多いほど(回数だけではないように思われる)、なめらかでつややかな
乳白のとろりとした胡粉が得られる。
こんなに手がかかるけど、私は日本画の絵の具のなかでは胡粉が最も好きだ。
溶いているときも楽しかった。
それは、素晴らしい胡粉の使い手が、何人かいらしたからで。

…今日は海の側の陶房に行く。
この海は夕日の海で、両側を岬で囲まれているのでまあるい湾のように見え、その中に夕日が沈み同じ方角に富士山も見えるという絶景の場所。

今日は暖かないい日和であったので海面にはキラキラと陽があたり、もわーっと霞む遙か彼方に、幽かに白く富士山が浮いていた。
そのさまが、さやかに霞む薄い青のうえに、奥村土牛さん(※1)がたらしこんだ(※2)胡粉のようにまったりとつややかにミルク色して、美しかった。
土牛さんの絵の、それはこんな風景だったのかなぁ。
それとも、土牛さんにとって「富士」はそういう存在のものだったのか。
儚くて、でも確実に存在している美しいもの。
そういうことを、胡粉ひとつで潔く表現していることが、すごい。
どれくらいの「いい子、いい子」があの胡粉にこめられているのだろう。

そう思って、今日みた風景がさらに心に残った。
陶房に行ったのも実に久しぶりだったが、そんなふうに風景も気候も良く、またもりもりと作陶も捗ったので、たいへん充実した午後のひとときとなったのだった。


※1 日本画家の大家。
※2 へんな意味ではない、日本画の絵の具の塗り方の技法のひとつに「たらしこみ」というのがあるのだ。

« その3 | トップページ | 調べくらべ♪ »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/106794/5501226

この記事へのトラックバック一覧です: 胡粉:

» 日本画に関する情報満載! [日本画案内サイト]
日本画に魅せられた皆様に少しでもお役に立てればと、当サイトでは日本画に関する様々な意見や情報のブログを集めています!ぜひご覧になってください!! [続きを読む]

« その3 | トップページ | 調べくらべ♪ »

2013年12月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        

お気に入り☆BOOKS

  • 小川洋子: 「ブラフマンの埋葬」
    ブラフマンという不思議な生き物に関わった私の、ゆるやかな変化の物語。
  • 吉本ばなな: 「デッドエンドの思い出」
    シアワセとフシアワセの境目ってなんだろうかと、そのボーダーラインの不確かさはむしろシアワセな贈り物なんじゃないかと思わせてくれた作品。
  • 駒形克己: 「空が青いと海も青い」
    ぜんぶ広げると1枚の紙になってしまう、不思議な絵本。広げたり畳んだりしてみるとまた、構成が変化しておもしろい。書いてあることは、一言なんだけどけっこう科学的。
  • イワサキユキオ: 「Say Hello! あのこによろしく」
    どのページを開いても、満面の笑顔になっちゃう。笑顔なのに、ウルウルしちゃう。子犬たちの成長が、愛情たっぷりの写真で綴られています。
  • 川上弘美: 「椰子・椰子」
    ありえなさそうなんだけど、ありえちゃうような不思議な日々を淡々と過ごす「私」のへんてこりんなお話。山口マオさんのイラストも可愛い。
  • 西岡常一・小川三夫・塩野米松: 「木のいのち 木のこころ 天・地・人」
    寺社建築に携わる二人の宮大工の棟梁のお話。宮大工という未知の世界の話はとても興味深く、また「真」をみるということは万事共通なんだと感じ入りました。

最近のトラックバック

無料ブログはココログ