« 目黒川桜たより13 | トップページ | 国立劇場さくらまつり »

2007/03/23

蓮絲恋慕曼荼羅

国立劇場に、「蓮絲恋慕曼荼羅」を観に行って来ました。

まず…あのようなもの(豊寿丸)に好かれたら非常に困ります(笑)。
打算のない純粋な恋心なのでしょうが、純粋なだけに恐ろしい。
そもそも継子いじめの決定的な原因を、自分でつくっておいて悪びれもせず「姉上をお守り申す」とは…もーうホントに、自分の気持ちに素直にひたすら突っ走ってしまう幼さであるよ。
あまりの猪突猛進ぶりに、客席からは時に失笑がわきおこるほど。
それほどに、段治郎さんの豊寿丸は、若さゆえの不遜で傲慢で残酷で憎めない、そんなところをいかんなく発揮。
最初はどんな贔屓目にみても十六歳には見えないよーと思いましたが、始まっていくらもたたないうちに、豊寿丸以外の何者にも見えなくなっていました。

玉様は、ただ運命に翻弄されるお姫さまなのかと思いきや、たいへんに魂の気高いお役でした。
継母にいじめられ弟に翻弄されつつも、そういう乱れた魂をどうすれば平安に導けるのか…悩み抜いた末(ある意味)解脱するという。
女性としての迷いよろめき、姉としての母性、衆生を知りながらもなお魂の気高さを持つ初瀬という役、玉様でしかできなかったかもしれません。
まさに蓮の花の如く「泥中より出てなお純白に輝く」といった風情でした。

右近さんの女形、恐かったけど(恐い役なんですよ)とても良かった。
カーテンコールの時まで、きちんと「照夜の前」してて、目が合ったら恐くて、でも笑っちゃった(ごめんなさい)。
でも、これからもああいうちょっと個性の強い女役をやって下さったら嬉しいな、楽しみが増える感じで。

猿弥さんの嘉藤太がとても良く、ことに初瀬を殺しに来たのにどうしても殺せない葛藤が、こちらもものすごく感情移入できる感じでした。
正直に生きていたのに、殺されてしまってかわいそう。不条理だなぁ。
また、殺されたあと死体に乞食が群がってきて、「生きている私たちには衣服や道具が必要なんです」と、拝んでから嘉藤太のものを奪っていくさまは、リアルでぞっとするけれど、現世においてモノを生かし続けていく、という循環、転生、みたいなテーマをここでも表現しているようにも思えました。

舞台の構成としては、装置はシンプルだし(数枚のパネルを組み合わせて場を表現する、いわば抽象舞台というやつですね)下座音楽はないし、いわゆる「歌舞伎色」みたいなものは希薄でした。
ただ衣装がホリゾントの照明の色と合わさって、えもいわれぬ美しさだったので、「一服の絵」としての舞台のつくりこみはやはり歌舞伎ならではだなぁと。

脚本における人物描写はとても繊細で、表現する役者さんたちも芝居のうまい方ばかりなものだから、深く感情移入できましたし、物語自体が、深く組み立てられていました。
いじめ役の照夜の前にだって、いじめるバックボーンみたいのが自然と浮き上がってくるものだから、ひどいんだけど、ある意味わかる。
豊寿丸も、初瀬が好きすぎて、だだっこみたいになってるんだなぁとか。
人間って、執着があったり欲が深かったり愛憎があったりして(良くないことはわかってるのに)罪を犯し、それでかえって傷口を広げてしまうようなところがありますよね。
初瀬は、そんなところに気付き、ではどうすれば魂は救われるのか、というところまで思い至ったのです。
曼荼羅というもので果たしてそういったものたちを昇華できるのかは私にはよくわかりませんが、曼荼羅とは煩悩を超えた、宇宙の平安な自然な流れを表現しているものだと聞きます。
ほんとうは、そういったものに救われるのではなく、そのことに気付いた自らの魂というものが自らを救うものではないかと私は感じますが、この時代の宗教観ではまた異なった解釈があったのでしょう。
そのあたりは、少し調べてみないと…ですが、「救い」=「魂の昇華」と解釈するのであれば、そういった方法を手もとまで手繰りよせることができた、初瀬という女性(中将姫)の物語なのかなと、思いました。

深く観じさせて下さる内容で、観に行くことができて本当に良かった、と思いました。
これに出会わせてくださったことに、感謝です。

« 目黒川桜たより13 | トップページ | 国立劇場さくらまつり »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/106794/5795317

この記事へのトラックバック一覧です: 蓮絲恋慕曼荼羅:

« 目黒川桜たより13 | トップページ | 国立劇場さくらまつり »

2013年12月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        

お気に入り☆BOOKS

  • 小川洋子: 「ブラフマンの埋葬」
    ブラフマンという不思議な生き物に関わった私の、ゆるやかな変化の物語。
  • 吉本ばなな: 「デッドエンドの思い出」
    シアワセとフシアワセの境目ってなんだろうかと、そのボーダーラインの不確かさはむしろシアワセな贈り物なんじゃないかと思わせてくれた作品。
  • 駒形克己: 「空が青いと海も青い」
    ぜんぶ広げると1枚の紙になってしまう、不思議な絵本。広げたり畳んだりしてみるとまた、構成が変化しておもしろい。書いてあることは、一言なんだけどけっこう科学的。
  • イワサキユキオ: 「Say Hello! あのこによろしく」
    どのページを開いても、満面の笑顔になっちゃう。笑顔なのに、ウルウルしちゃう。子犬たちの成長が、愛情たっぷりの写真で綴られています。
  • 川上弘美: 「椰子・椰子」
    ありえなさそうなんだけど、ありえちゃうような不思議な日々を淡々と過ごす「私」のへんてこりんなお話。山口マオさんのイラストも可愛い。
  • 西岡常一・小川三夫・塩野米松: 「木のいのち 木のこころ 天・地・人」
    寺社建築に携わる二人の宮大工の棟梁のお話。宮大工という未知の世界の話はとても興味深く、また「真」をみるということは万事共通なんだと感じ入りました。

最近のトラックバック

無料ブログはココログ