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2008/10/25

「忠臣蔵」Aプロの感想

10月24日 平成中村座「忠臣蔵」Aプロ・Bプロ @浅草寺境内・中村座

深夜、何度もポチッとしそうになりながらも「いいや私はこれは我慢!」と思っていた10月の平成中村座でしたが、日頃おじゃましているブロガーさんたちの感想を読むにつけ行きたい気持が盛り上がり、ついに…ということで、初志貫徹ついぞせず。しかもAプロBプロ通しという思いきりのよさ(なんちゃって)。
運よくいお席を譲り受け(Aプロは松席、花道よりの四列目!)秋晴れ続きであったのに、この日だけなんと豪雨となった、平成中村座に行ってまいりました。

人形口上からはじまり幕があき、一体一体の人形がそれぞれに役となって動きだし、いよいよお芝居の始まり。この「大序」の荘厳な雰囲気には実にわくわくします。ひとりひとり、息が吹き込まれていくそのさまに、観客である私たちもどんどん期待が高まっていく感じ。とともに、その格調高い儀式性が、歌舞伎ならではという嬉しさを運んでくれる。でもいっぽうでは「これは舞台の上での話なのだ」という心構えもつくってくれるのです。(時代的にそういう演出が必要だったのでしょう。話が進むにつれ、どんどん感情移入してそんなことは忘れてしまいますがね)

さてそこでさっそくに、師直のいじわるぶりが披露されますが、この橋之助さんがまさに「大いじわる」です。猾くて好色で欲深で自己中。なのですが、とにかく「大きい」ので、この人物がそれなりに地位を築いているのが得心できる感じなのです。私の中では、橋之助さんて「いい人」「好青年」なイメージが強かったので、ここまでスケール感のある意地悪役をなさるとは、驚きでした。

そしていじめられる判官(勘三郎さん)と若狭之助(勘太郎さん)。若狭之助は若々しい正義感に溢れていてすぐにカッとしてしまう。それをなだめる判官は、穏やかで忍従の人なのですが、この勘三郎さんの「目」が、死んでいる目なのにはびっくりしました。自分を押し殺して、ずっと耐えている人の、生気のない目でした。
それが、いよいよ堪忍袋の緒がきれて爆発してしまう(「松の間刀傷の場」)、そのときの感情の入り方が、すごかった。師直にこれでもかと嫌味をいわれ罵られ馬鹿にされ、フッと小さな炎がその目に宿るのです。それでもそれを懸命に押さえようとしているのに、どんどんその炎は広がっていってしまう。そして目だけでなく、からだじゅうからそれが出てきてしまうのですね。
それは、いつもの勘三郎さんの「爆発!」といった感じの演技ではなく、実に押さえた味わいで、炎が広がっていくさまでさえ本当に微かな(でもしっかとそう見て取れる)ものでした。
判官の目に生気が宿ったときの行動がこんなことなんて…本当に悲しいことです。

実はこのシーンのとき、浅草はこの日一番と思われるような豪雨。仮説小屋の中村座では、雨音がものすごく響きます。さめざめと降っている程度ならばよい効果音なのですが、さすがにこのときは、屋根が破れるかと思うような勢い。橋之助さんがネチネチといじめている台詞が、ほとんど聞こえませんでした(T_T)。(松席前方の私でさえそんなだったので、後ろの方は全然だったのでは…?)台詞の応酬、芝居の組み立てからすれば残念な事態でしたが、反面、おふたりの表情に集中できて、師直のいやらしさや前述した判官の心境の変化など、「感覚で」観じとることができたのはむしろ良かったのかもしれません。
このシーンだからこそ、呼応するかのように大雨だったのかとも感じました。

そして「裏門の場」、主人(判官)の一大事に駆け付けたが「色にふけったばっかりに」一足遅れた勘平(勘太郎さん)。口惜しくも後悔先にたたず、おかる(七之助さん)にすすめられてやむなくおかるの実家に行くことになります。
筋として知ってはいても、こうして舞台で観ると、一段と受け取り方が深まります。
その後の勘平の悲劇にも(自分でまいた種とはいえ)深みが出てくる。このシーンを見たいがためにAプロを取ったのですが、良かったと思いました。

四段目、切腹にあたり何度も由良之助はまだかと問いかける判官。それをいちいち確認しにいく力弥(新吾くん)もせつない。「まだでございます」「まだのようでございます」…。
やむなく小刀を入れたところに、息せき切って由良之助(仁左衛門さん)が。ひと目会えたとあとを託し絶命した判官を、愛おしむように衣服を正し、手から小刀を離そうとする由良之助。が、断腸の思いを表すかのように、判官の手は小刀を持ったまま凍り付いたように開かない。それを、暖めるように包み込み、一本、一本、指を離していく由良之助に、ポロポロと泣けてしまいました。思いきりの愛情で判官を包み込んでいるのが手に取るように感じられたのです。仁左様本当に素敵でした。

亡くなった判官の屋敷を明渡したその門前で、復讐にいきりたつ志士たちを諌める由良之助ですが、自身も密かな仇討ちを決意する。この時、判官が自刃した小刀を大切に懐にしまうのですが、それとともに判官の家紋の入った提灯を愛おしそうにたたみこれも懐にしまうのが、印象に残りました。
屋敷はなくなっても、刀は判官、家紋の入った提灯は判官の家そのもの。このふたつを胸に、由良之助の意志はいっそう強く固められていくのでしょう。

全体に、いつもの自由な実験的な中村屋さんのイメージとは全く異なった、古典に忠実な味わいの舞台。カーテンコールも、もちろんなし。
この端正な味わいのものを浅草の芝居小屋でやるということが、いまとても重要なような気がいたします。昔ながらの、本質に戻すような、味わい。
中村屋さんの面々だけでなく、ここに仁左衛門さんが加わられていることが、その味わいをさらに深いものにしてくださっているように思いました。

以下、余談。

前述したようにこの日は大雨。交通機関も遅れがあるかもと思い、早めに家を出ましたが、田園都市線が予想外の事故で止まっていました〜!shock
あせってバスに路線変更し渋谷に出て、そこから銀座線に。あわてていたので、いつも乗っている路線しか思い付かなかったのですが、そうだ、もっと早く着ける方法があるかもと調べると、新橋で都営線に乗り換えたほうが若干早い!
ということで、なんとか、開演ギリギリに浅草に到着。あーヒヤヒヤした。
中村座のつくりは、他ブロガーさんからたくさん情報をいただいてましたので、ここが一番あせりませんでしたhappy01scissors

初の平成中村座は、いかにも芝居小屋といった雰囲気。木戸で切符をもぎってもらい、入り口で靴を脱いであがります。この日は傘があったので、傘を傘立てに入れる人、長い雨靴を脱ぐ人、などで入り口けっこう混雑していました。とはいえ係の方たちの親切な指示のおかげで、無事「人形口上」から観ることができましたhappy01

この「係の方」たち、とても慣れた感じで誘導してくださるうえ、「あと○○分ですから十分間に合いますよ!」などと、安心させてくれるのです。なので、無駄にあせらず、よって会場の混雑も回避できるという、まさにプロの技。素晴らしい!そのうえ皆さん常に笑顔で、とっても素敵でした。
噂のトイレ担当の方達も、ユーモアも交えてニコニコと急がせる(?coldsweats01)というこれまたプロの技。「あとのお客さまのためにドアは少し開けて出てくださいね〜!」「お化粧直しは、名物・なんちゃってミラーでお願いします〜!」「あと○分で開演ですが、(列の後ろのほうの人に)この位置で十分間に合いますから、安心なさって、すっきりして次の幕をごらんくださいね〜!」と、気持ち良く効率良く回転させるワザ満載。こんなふうに楽しく言われたら、誰だって快く協力いたしますわ。

休憩時間には、お茶子さんたちが客席にも、おせんべいやお弁当、お茶やお菓子なんかを売りにきてくれます。ゴミも席まで回収にきてくれるのがありがたい!
今回の平成中村座グッズは、「忠臣蔵」「法界坊」のマグネットのみ。二個で¥300。あとはマイ箸なんかも販売してました。
ちなみに会場内は、休憩中であっても撮影禁止。歌舞伎座とかに慣れちゃってると、うっかりしそうなので気をつけましょう(笑)。

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コメント

>SwingingFjisanさん、ありがとうございます。おかげさまで、行って来れましたhappy01
新吾くんはとても良かったですね。松席からも、とくに花道まで進んで由良之助の姿を探すときなど、泣きそうな震えそうな必死の表情で、胸がヒリヒリしました。

桜席は、ある意味特等席ですよね!見えづらいところももちろんあったでしょうが、舞台裏が見えるなんてすごいレアですよね。判官が亡くなって諸士たちが集まったとき、襖の奥を桜席の方が覗き込むようにしていて、あぁ、奥に本当に控えていて演技されているのだなと思いました。

電車が止まっていたのにはびっくり仰天でしたcoldsweats01信号故障だったみたいですが、まさに起きた直後くらいの時間で、全線止まっていたので…ほかの交通手段があって良かったです。
早めに出ないとだめですねー。ついついギリギリまで家にいて用事をしようとする質の私なので気をつけますbleah

貴重な機会を生かすことができて、本当によかったですね。私もmami様がごらんになれて、心から嬉しく存じます。
判官が大星を待ちかねる場面、桜席から見ると、力弥の新悟クンが本当に泣きそうになって必死で首を横に振っているんですよ。見えない部分も多い席でしたが、判官と力弥の両方の気持ちがじかに伝わってきました。でも、Aプロは正面のいい席で見たかったです~(mami様のお席、大正解ですよhappy01)。

電車の遅れはどうしようもありませんから、アセりますよねぇ。そのときのお気持ち、よ~くわかります。地下鉄は比較的遅延が少なかったのですが、最近は乗り入れ路線での事故などによって影響を受けることもあり、油断できません。余裕をもって出るという自衛策しかありませんね。お疲れ様でした。

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