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2008/10/27

「大老」

10月27日 11:30〜 @国立劇場大劇場

「大老」千穐楽を拝見してまいりました。
幕末の情勢はただでさえ複雑でわかりにくいところがあるのですが、このたびの「大老」は井伊直弼の人柄と、水戸藩との対立に絞られていたので、この頃の知識にそれほど詳しくない私にも非常にわかりやすく見ることができました。

まず、井伊大老・吉右衛門さんはさすがの貫禄と表現力、温かさでした。ことに今回は、妻お静との温かな交流と、政策にあたっては水戸藩への制圧と暗殺まで、という削ぎ落とされた構成でしたので、その対比がより鮮明でした。
水戸藩の面々も穏健派と急進派にわかれていて、そのために悲劇的にも対立することになった兄弟・古関新一郎と次之介ですが、これを実際のご兄弟である歌六さん歌昇さんがやっていてちょっとリアル。血気盛んな弟と、なだめる兄…という立場での熱演でした。
いっぽう力づくで条約締結を迫るヒュースケンの大谷桂三さん、ハリスの澤村由次郎さん、外人にしか見えませんでした。立ち姿も、外人そのもの。というよりも、その頃の人が見た外国人の印象がこうだったのでは?と思える印象でした。歌舞伎役者からみたリアル外国人のつくりというか(笑)。
お静の魁春さんが、控えめななかにも女心を滲ませて非常に良かった。対する正妻の昌子、芝雀さんはおおらかでお嬢様な雰囲気で、お静にやきもちをやくことなど考え付きもしないような感じ。
仙英の段四郎さんが、禅師らしい包容力と達観した風情があり、地味ながらとても素敵でした。激動の時代にあって、登場人物すべてが揺れ動いている中で、ひとり異なったその風情が安心感というか、心の落ち着きを与えてくれていたようでした。

全体的に、役者さんのバランスがとても良かったのと、大人数での立ち回りや混乱の場面での役者さんたちの処理の仕方動かし方などの演出面でのまとまりがとてもよく、舞台として見栄えしましたし、見応えもありました。
以前に、見取りで千駄ヶ谷井伊家下屋敷の場を見たことがありましたが、そのときはお節句に時期なのに雪が…というシーンにあまり心を動かされなかったのを憶えています。感動どころなのだとは思いましたが、いまひとつ感情移入できなかったのです。が、今回は直弼の心理も、世情の流れも、その立場立場での人々の思いなど、前半で丁寧に描写されていたので、このシーンにしみじみと泣けてしまいました。お静とのやりとりも、ひとつひとつが心に滲みました。
最後の桜田門外の場も、立ち回りの迫力とともに、逃げずに討たれその意志を吐露した直弼の姿にはぐっときました。
立場の違い考え方の違いはあれど、皆が国のことを真剣に考えて行動していた時代。その人の心にせまってみれば、それぞれに愛おしい思いに溢れていることを、強く感じた舞台でもありました。

ちょっと余談↓


ブロガーさんの間でも評判になっていた、昌子の余興の踊りについてですが、芝雀さんの踊りは素敵でしたが(引き抜きもあって本格的だったし)私的には「道成寺」じゃなくてもよかったのではと思いました。
華やかさを出したかったのかもしれませんが、今回の演出の全体的なトーンとか、それぞれに配された役者さんたちの力量のバランスからすると、特に華やかにする必要もなかったような…。あのトーンのままでも観客は十分に惹き付けられていたのではないかなと感じましたが。。。

千穐楽とあって、客席はかなりにぎわっていました。
食堂など、満席・売り切れだったようです。
国立劇場はいつも余裕があるのでちょっとあなどっていました(苦笑)この日は食堂でお食事をしようかと思っていたのですが、お弁当に切り替えました(^-^;
歌舞伎を見始めた頃は、千穐楽でもさらっと終わることに少々物足りなさがありましたが、最近ではそれが当たり前に慣れてきまして、むしろ今日のような演目の場合、カーテンコールがあったりしたら、むしろ違和感だったと思います。
「大老」はかなり見応えがあって、何度も見たくなる演目だと感じましたね。

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