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2008/11/26

平成中村座「法界坊」

11月25日 「法界坊」 平成中村座

先月の「忠臣蔵」に続く、平成中村座の浅草公演、千穐楽。
同じ中村座の小屋なのに、こうも雰囲気が違うものかと思うくらい、空気が違う。
まず第一に(きっと)もう何度も中村座を観ている(であろう)観客の、開演前からの期待感が、忠臣蔵のそれとは違うわくわくしたものである。今日が千穐楽であるということもあるだろうが、なにかやってくれることを楽しみに待っている、そんな空気が会場中に満ちていた。忠臣蔵のときは、もっと“心した”空気感があった。
そして、役者さんの発する振動が、微粒な繊細さを持ちつつも思いきった突き抜け方をしていて力強かった。忠臣蔵のときはやはり、微粒に繊細でありながらぴんとはりつめて地に足をつけていたのに対して、今日のはそれがポンポンと空中で爆発していた感がある。
同じ小屋が、全く異なった芝居の空気感を、そのまんま、受け止めていることの感動。それを人肌感覚で感じ取れる「小屋」の不思議。

もうこの日が千穐楽であったのだから細かいことは記さないけれど、同じ「法界坊」でありながら、串田演出は個々の役柄を大きく対比させてわかりやすくしていたし、歌舞伎が歌舞伎らしくあるための演出をあえて現代劇のように扱って存在感を際立たせていた。
例えば、世間知らずの野分姫の、しゃべりかたがあんまり遅くて、みんながジリジリ、クネクネしちゃうとことか、要介とお組が真面目にいちゃいちゃしてる後ろで鯉魚の一軸が次々と、まんまと人の手に渡っていくところとか、ものすごくわかりやすい。
黒衣がわざわざ堂々と、硯や筆の小道具を持ってきたり、観客に挨拶して引っ込んだりするのも、黒衣が舞台上にはいないんだなという決まりを頭に焼きつけているよりも、むしろ「あぁ黒衣はああいう役割を舞台の上でする人なのか」ということがわかる。
なにが歌舞伎なのか、どういうのが型なのか、どれが伝統なのかという逡巡と葛藤はもちろんたくさんあるだろうけど、一般のひとが歌舞伎を演劇のいちジャンルとしてみて、その世界観に入り込むにはとても間口が開かれている、そいういう印象だった。

勘三郎さんの法界坊は、とても愛嬌がある。あれはほんとうに僧なのか?と思うような、本能だけで生きてるみたいな人物だけど、そこまで本能に素直だと、いっそ気持ち良くて可愛くさえ見えてくる。いや、それが勘三郎さんならではの持ち味なのだろう。
台詞のひとつひとつ、客いじりのしかたまで、徹底して下世話で、笑わせてくれた。そして後半、それをすっかり忘れてしまうほどの、悪汁絞り出すようなおどろおどろしさだった。

淡路屋・笹野さんと亀蔵さんの、「お組に横恋慕」コンビはこのうえなく気持ち悪くてよじれるほど笑わせていただいた。お二人とも身体能力のポテンシャルの高いこと、動きがあんまりくねくねしていて生々しくて、あんなものたちに惚れられたらお組でなくても逃げ出したくなるだろう。
対する「お組と相思相愛」勘太郎くんは、すっきりとしたいい男ぶり。でも、やっていることは非常に心もとなく頼りがいのない男なんだけど。

ひとつひとつを語ればきりがないし、それに全部なんて憶えていないのだけど、さっきまで大笑いしていたのが、いつの間にか人間のダークサイドの淵にどっぷりと沈められて、のめりこんで舞台を観ていた。
だから終盤、舞台の後ろが開けられ浅草の町の夜が視界に入り込んできたとき、そのなかを激しく踊る法界坊、狂ったように吹き荒れる桜吹雪には(話に聞いていても)仰天した。
花も、泥水も、いっしょくたになって、でも互いにその色を混ぜあったりしない光景に。どんどん噴出するどす黒いものに。

やはり勘三郎さんはエキサイトさせる術を心得ているし、それだけに走らず本質も押さえているのだと思う。心底、その「本質」を、楽しませていただいた。


以下、千穐楽のカーテンコールレポ。

席にいくと座布団の上に旗が置いてある。なにかと手にとると、千穐楽のカーテンコールのためにスタッフの方が準備してくださったものだった。
旗の裏には「2008年平成中村座霜月公演 千穐楽御観劇の幸運をご一緒する皆様へ 2ヶ月間のお疲れ様の気持ちと 平成中村座との再会と祈念する気持ちと 関わった皆様への感謝の思いを込めて カーテンコールの時に皆で旗を振りませんか? 一度幕が閉じて開いた時に宜しければご一緒に!」というメッセージ。
つづいてお茶子さんが「この旗は、出演者には内緒です。サプライズですので、上演中は見えないところにしまってくださいね」と説明にいらした。
ほほーう!そんなことならカーテンコールでは思いきり、降っちゃうよ〜!とテンション上がったのでした。

さてそのカーテンコールですが…当然なりやまない拍手に、何度も何度も幕が上がり…。客席は皆スタンディングオベーション、そしてみなさん件の旗をおおいに振っております。
勘三郎さん、ご挨拶のときに、自分ではなくて平成中村座あてに、とても素晴らしいお手紙をいただいた、ちょうど今日はNHKの黒崎アナウンサーがいらしているので、読んでもらおうと思います、と、手紙の朗読を。その内容は、小屋への感謝、舞台への熱い思い、裏方さんたちへの感謝、お茶子さんへの感謝…と、麗々たる心温まる文章で、まさに観客である私たちが思っていることを、すべて書き連ねてあるものであったので、まさに共感してさらなる温かい絶大な拍手を客席から沸き上がらせるものでした。
そして、出演者ひとりひとり、小三郎さんたちや大部屋の俳優さん、地方さんにまでひとことづつ挨拶を促した勘三郎さん。「チーム」でやってこられたのだな、走りきったのだな、という思いを感じます。そしてなにより、感謝の気持ちが舞台の、小屋の、隅々まであふれていて、とても素敵な空間でした。

ホリゾントが開けられた外側では、桜吹雪が思いきり噴射されているし、客席側にもこれでもかと桜吹雪、そして蜘蛛の糸がまき散らされ、カーテンコールまでエキサイティング。
完了したことでの打ち上げ的な盛り上がり方ではなく、「感謝」に溢れていたこの小屋が、今日で最後かと万感の思いでした。

ちなみに今後の中村座は、すでに告知されているとおり、2009年9月は名古屋で、2010年10月11月は大阪住吉大社での公演が決定しているとのこと。また、これは希望ですが、と前置きのあとで「そのあと海外にいって、そして2012年には半年くらい浅草でやりたい」とのこと。これはぜひぜひ実現されて欲しいです。

今回は、一階竹席、左側の一番前のほうで観劇できたので、役者さんたちの表情も近く、最高に楽しめました。
平成中村座の皆様、ほんとうにありがとうございました。

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コメント

>non様、コメントありがとうございます。
大盛り上がりでした!happy01
カーテンコールで読まれた手紙には、舞台上でみなさん、かなりぐっときている感じでしたよ。

歌舞伎が大人気なのは嬉しいことですが、こう毎月あちこちでかかると、時間もお金も持ちませんねcoldsweats01
中村座に関しては、2012年を待つという感じでしょうか。浅草に常設小屋をつくる運動もありますし、それも含めぜひ実現してほしいものですね。

楽日レポ楽しく拝見しましたhappy01
大盛り上がりだったようですね。さすがエンターティナー勘三郎さん率いる中村座です。
アンコールのエピソードもじーんときました。そんなお手紙をもらって役者さんやスタッフも本懐でしょうね。
中村座、行きたいと思いながら結局行けませんでした。。
(いろんな意味で歌舞伎を見に行く余裕がなく…)
次回東京で開催するのはちょっと先になりそうですね。あぁ後悔先に立たずですweep

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