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2009/01/30

浅草がたり

200901141036000

もう千穐楽を過ぎてしまいましたが、その千穐楽に拝見した感想を少々。

一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)
亀治郎さんの大蔵卿は、前に観たとき曲舞の場ではもっと「作り阿呆」ぶりが極端だったような気がいたします。ちらちらと随所に見られる本来の目つきにハッとしたものでしたが、この日はゆるやかな印象を受けました。なのでつくりとして仰々しくなく、そして次の奥殿の場とのめりはりが逆に効果的にきいていて、全体の流れとしては滑らかで品格があったように思いました。
曲舞は相変わらず見応えがあります。亀治郎さんの踊りのシーンはいつも、とても期待を寄せてしまいますが、いつも期待以上。勘解由の亀鶴さん、播磨の男女蔵さんの攻撃をさらりとかわし、ひょうひょうとした軽やかな舞をみせてくださいました。
亀鶴さん男女蔵さんの悪ぶりは、前より大人しめだったような。全体に、極端に表現するよりは、微妙なところも狙っていたのかなという印象でした。
今回はめずらしい「曲舞」を見せていただいて(しかも亀治郎さんの踊り!)嬉しいかぎりでしたが、ぜひぜひ「檜垣」から通しで見たいなあと、思った次第です。

土蜘(つちぐも)
やはり勘太郎さんの妖気が…スゴイ。先日は3階からでしたが、この日は前から二列目、花道から登場した智籌(ちちゅう)の妖気が、客席にまで冷たい湿り気をおびて客席にまで流れ込んできましたよ。
ブルブルッ!
前シテの妖気は前回みたときのほうが壮絶に感じましたが、後シテ、蜘も本性を現してからの陰のエネルギーの強さは、この日のほうがあったと思います。亜鉛会はとにかく登場時のただならなさに仰天しましたが、前シテでは本性は隠しているわけですから、そこはかとなく漂うこの日の空気感のほうが良かったのかもしれません。
後シテの舞も素晴らしかった!もともと踊りには定評ある勘太郎さんですが、さらに進化し、そしてなによりあの妖気を醸し出していたことに、魂を奪われた感覚でした。

(以下、二部の感想です↓)

一本刀土俵入
もうこれ!最高でした!
勘太郎さんの茂兵衛も、亀治郎さんのお蔦も…!
前半の、お蔦と茂兵衛の会話のテンポと間が、いい。この場かぎりの出会いとも思える二人の、特に弾みもしない、でも奥底の心情を吐露した会話。
親もなく親方にも見放されひとりでなんとか生きていこうとする茂兵衛に、別段の思い入れもないがふと感じるところがあってしたのだろう、お蔦のやさしさがしみ入る。「あんた、泣いてんのかい」にぐっとくる。亀治郎さんの、ちょっとした細かい台詞のいいかたに、お蔦という女性の、ちょっと諦めた斜めな生き方と、奥にあるやさしさが滲み出ている。
勘太郎さんも、素朴で正直で人のいい、素晴らしい茂兵衛だった。
後半、10年後の茂兵衛の変貌ぶりがまたすごい。すっかり渡世の人となり立派な押し出しの大人になっている。勘太郎さんは踊りもいいが、台詞もいい。
お蔦の亀治郎さん、後半の、夫を待ちながら娘とひっそり暮らしている、そのさまがまた前半にまして、よい。疲れてもうそこでしか生きられないいっぽうで気丈な雰囲気と娘への愛情をかもし出す。すっかり様変わりして現れた茂兵衛を、なかなか思い出すことができない。
…この、「間」が、よかった。
記憶のなかで反芻し、絞っても出てこない、茂兵衛の思い出。
ところが、茂兵衛の頭突きをみて一瞬で蘇るのだ。
追われるお蔦たちを逃がして、最後の名台詞「これが俺の一本刀土俵入り」、勘太郎さんのこの台詞は渾身のものだ。もうこれに、泣けて泣けて…それに、格好いい!
いわゆる「いい話」なのだが、それを薄っぺらに見せず感動を引き起こすのは、とても難しいのではないか。劇中では茂兵衛の心意気が語られるが、その舞台には、勘太郎さんと亀治郎さんんの心意気をおおいに感じた。今年の浅草は、これを見れただけでも大満足というもの。

京鹿子娘道成寺
七之助さん初役の女形舞踊の最高峰、この日も七之助さん綺麗!七之助さんの持ち味なのか、ちょっと堅い感じではあったが、よくぞ踊りきった!という印象。
道成寺は何度か見ているが、家によってけっこう構成が違うように思う。(このあたりよく憶えられていないところが、私の情けないところ)七之助さんのはちょっと不思議な花子だった。どこが…といわれても?なのだが…。
小三郎さんといてうさんの後見は、この日も鮮やか。ただ、この前歌舞伎座で、玉三郎さんの芸術的なのを見ちゃってると、ちょい違う。踊り手との呼吸もあるのだろう。これを毎日やるのは大変なこと。
所化の亀治郎さんにも注目していたが、以前ほどのガン見ではなかった。でもやはりずっと花子を見ていたけど。初期の「勉強しよう」という意気込みから、花子の七之助さんを見守る視線になっていたかも。
実は今回、唄がちょっといまひとつだったのだ。この日の「道成寺」では、後半になるにつれ良くなったけど。
いろいろな要素が重なって、正直いうと鐘入りでは、私はそんなに盛り上がらなかったのだ。ごめんなさい。「道成寺」ってやはり、難しい演目なのだとも感じた。
でも七之助さんはひと月、踊りきった!そのことがまず、すごい。来月は松竹座で、やはり大曲「鷺娘」。しかも今月玉三郎さんがやったばかり!きっと玉三郎さんの薫陶も受け、腹をすえてなさることでしょう、どんな鷺娘が見られるか本当に楽しみである。


…そんな今月の浅草。
どれも良かったが、やはり「一本刀土俵入り」かなあ。名実共に、亀治郎さんと勘太郎さんが、この座組をひっぱていた。

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コメント

>かりん様、コメントありがとうございます!
また共感してくださったとのこと、さらにありがとうございますhappy01
「一本刀…」本当に良かったですね。派手ではないけれど、深く心情を語ったお芝居に、ぐっときました。亀治郎さんのお蔦、素敵でしたね〜lovely

松竹座には3日にも?!スゴイ!
でも亀治郎さんにあんなふうに言われたら(お年玉ご挨拶のときね)行きたくなりますよね。
楽しんでいらしてくださいね!wink

mami様
浅草最高でしたよね。mami様の感想を読みながら、わたしも大変共感しましたhappy01「一本刀土俵入」は一番楽しみにしていましたが、舞台の臨場感、あのやりとりに涙が出てしまいました。亀ちゃんのお蔦、惚れましたよconfident名演技ですよね!
大阪は千穐楽に行く予定のはずが、たまらず3日の日も日帰り遠征します。ワクワクドキドキ!!

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